甲状腺ホルモンと不妊の関係性
日本人の10~20人に1人は甲状腺の異常があると報告されており、特に若い女性(20~30代)の患者さんが多いです。甲状腺ホルモンの異常は不妊の原因になります。最近では不妊治療を行う際に事前に甲状腺機能を評価することが一般的となっています。
甲状腺ホルモンの分泌が多い状態ほど妊娠成績が良いことが知られており、TSH(甲状腺刺激ホルモン、甲状腺ホルモンが多いほど低下する)が基準値の中でも低い状態になるようコントロールすることが世界的に推奨されています。そのため、症状がなくともTSHの数値次第では積極的に甲状腺ホルモン補充を行います。
甲状腺とは
甲状腺はのど仏のすぐ下にある臓器で、形状は羽を広げた蝶に似ています。甲状腺から分泌される甲状腺ホルモンは、新陳代謝を活発にする役割を担っており、全身の臓器や細胞の機能を正常に保つために欠かせません。
甲状腺に異常が起きると、色々な不調が生じます。生理不順や無排卵など不妊と関係する症状も、甲状腺機能の異常によって起きている可能性があります。
甲状腺ホルモンの分泌の仕組み
甲状腺ホルモンはヨウ素(ヨード)を主原料に生成されたものです。甲状腺ホルモンは血液によって全身へ運ばれ、その血液中に流れている甲状腺ホルモンの量を、絶えずコントロールしているのが脳下垂体です。脳下垂体は、甲状腺ホルモンが不足していると分かると甲状腺刺激ホルモンを分泌し、多いときは分泌を抑制することで調整しています。
女性がなりやすい甲状腺ホルモンの異常
甲状腺の疾患は、バセドウ病を代表とする甲状腺機能亢進症や、橋本病を代表とする甲状腺機能低下症があります。両方とも、20~30代女性の患者さんが多い疾患です。
主な症状は、動悸や微熱、だるさ、のどの渇き、体重増加または減少、月経不順など、様々あります。
これらの症状は「ただの体調不良」だと誤解されやすく、適切な治療を受けないまま放置されやすいです。そのため、甲状腺の疾患が隠れていると分からずに、不妊に悩み続ける女性も少なくありません。
不妊と甲状腺の病気
甲状腺ホルモンの分泌量が過剰(亢進)になる甲状腺機能亢進症も、分泌量が不足する甲状腺機能低下症も、自己免疫疾患が原因で発症すると言われています。また、甲状腺ホルモンは女性ホルモンの分泌にも関わるため、月経不順や不妊の原因になります。
甲状腺機能亢進症
甲状腺機能亢進症の多くは「バセドウ病」です。国内の患者数は、数万人いると言われ、20~30代の女性に多い傾向があります。月経不順や無排卵などの症状が生じることで、不妊になるケースがあります。また流産のリスクを上げる原因でもあります。
甲状腺機能低下症
代表的な疾患として「橋本病」が挙げられます。更年期障害やうつ病と誤解されやすい傾向にあり、20歳代後半~40代の女性に多くみられます。経血量の増加や、月経不順などが起きやすく、不妊や流産の原因にもなります。